

「プロとして」――湯本さんは何度もこのフレーズを使った。整備士が肝に銘じておくべきことは、プロ意識だという。
専門学校で技術を学び、整備士2級の資格を持って入社しました。それでも、経験がないと、プロとしての仕事はできません。
その経験の中で、大好きなクルマや機械いじりが趣味の範囲を抜け出し、意識が変わるときがきます。その意識の違いはクルマの扱いに表れ、目に見える形で差がでます。クルマを触って、金属の塊と格闘することが整備士の仕事ではありません。お客さまのクルマに向き合い、安心して快適に乗っていただくようにすることが仕事。
だんだんとそう思うようになっていきました。自覚が芽生えると、責任が伴って、怖いという気持ちが出てきます。それでいいんです。大きなミスがあれば、事故につながりますから。その責任をしっかり感じて、作業をするのがプロです」
入社したばかりの頃に、指導してくれた先輩に影響されて、行く道を決めたという。その人は、故障診断をまかされるスペシャリストだった。
「故障診断は、だれもができるものではありません。スペシャリストの道なんですよ。そのための勉強をしようと、資格取得にも力が入りました。
お客さまが困っていることを察知できたり、最初の段階で詳しいアドバイスができたり。先輩のその様子を見て、憧れました。普段は冗談を言い合い、気さくに話すけれど、クルマに向かうと厳しい、一流といえる人でした」
湯本さんが三十代に入ってすぐ、その憧れの姿が現実になる日がやってきた。技術室への抜擢だ。そこは、店舗ではクリアできない難しい修理が集まる場所。
「毎日入ってくるクルマのすべてが、難解修理。日々クルマに向かい、原因追求に明けくれます。
本当に鍛えられました。ひとつの結果に行きつくまでの道をせいぜい一本か二本しか描けなかったものが、五本六本といろんな角度からものを見られるようになりました。専門的な機材の使い方や、新しい分野の知識など、吸収できるものすべてに触れました」
技術室での修理と同時に、研修センターでの講師もまかされた。そこで彼の世界はより広く深くなっていく。
「教えるために、イチから基礎を見直しました。今まで当たり前のようにしてきた整備も、基本に戻ってしくみから学ぶ。そうして、見直す時間があったことは、今の整備の血となり肉となっています。
講師をしたことで、学び続けることの大切さも知りました。今、日産の最新技術の資格は期限付きで更新することになっています。一度の取得で終わりにしない。向上心を持って、新技術に挑戦する。継続的に知識を見直す、というのは、大事だと思います。現状維持では、力は衰えてしまいますから」


整備に必要なのは、『ひらめき』だと話す。現在、整備工場のコントローラーとして、作業効率と整備士のレベルアップを図る彼は、その『ひらめき』を若手に教えているのだ。
「運転する人や乗る人の個性がありますから、クルマにもその個性が反映されます。だから、整備要領書に書いていない故障や不具合も起きます。それらは修理方法の『ひらめき』で解決しなくてはなりません。角度を変えて考え、分野の違う知識を総動員して、あっちを見よう、これを使おう、とひらめく。そのために考える力を鍛えます。
今は、私ひとりで修理にかかることはほとんどありません。若手を一人つけて、ヒントを与えながら、一緒に作業をします。生きた事例を経験させることで、本当にたくさんのことを学べるのです。教えるときは、必ず、考えればわかることの答えを見つける時間を作ってあげる。このステップが大事だと思っています。答えを知れば簡単なことでも、そのプロセスを通ることで、応用力が身につくはずです。
『教える』というのは、度胸のいることです。向き合う度胸、語る度胸、そして自分を変える度胸。
相手をよく見て、言葉を変え、伝え方を変え、フォローを尽くさないと、しっかりと土台のある整備士は育ちません。教える側も度胸を持って挑まないと、難しいですね。しっかり向き合って、考える力のある整備士を育てたいのです」


現在の目標を聞くと、「思い描いている接客がしたい」と語った。難しい修理を一手に引き受け、工場を見渡してコントロールをしている湯本さんからの意外な答えだった。
「技術室にいるときは、ひたすらクルマに向かっていました。だからこそ、お客さまの顔が見たい、お話を直接聞きたいと、強く思うのかもしれません。お客さまの元に無事に愛車が帰り、納得していただいて、初めてその修理を終えることができるのだと思います。だから、接客は大切な要素なのです。
私が重きを置くのは、話を聴くということ。お伝えしたいことはたくさんあるのですが、まずはお客さまの声に耳を傾ける。それを理解して、初めて私が話せます。私が一歩ひくことで話をしていただくゆとりをつくり、そこに気持ちを落としていただく。話を聴くというのは、お客さまと向き合う大事なスタートです。
そして、お客さまへの気持ちをどれだけ素早くキャッチできるか、ということをいつも考えています。素振りや話し方を見て、私ができることに気づきたい。
家族で旅行したときに、旅館での対応が素晴らしく、感動しました。子どもに優しく声をかけてくれる。すっと手をさしのべてくれる。そんな接客が、この店で整備士として実現できたら、と思います。
クルマを直すことだけでなくて、来店が楽しい店であったり、あの人に会いたいと思ってもらえたり、居心地のよさをつくっていきたいです」
店という場所が自分に合っている、と話す湯本さんは、学生時代のアルバイトでもお客さまと話をするのが好きだった。そのときの常連のお客さまは、今、湯本さんに会いに、熊谷店の常連になっている。彼に会いに来るお客さまは、これからも増えていくだろう。

クルマのこと、なんでもご相談ください。お客さまのこと、愛車のことを親身になって考えます。スタッフ一同心より、お待ちしております。



