マスターテクニシャン File:39

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好奇心が押し開ける新たな扉

北見の町で有名なマスターテクニシャン

今回の主役は増田美也子さん。この「挑戦するメカニックたち」のインタビューに登場する初の女性だ。
増田さんは北見でちょっとした有名人。国家一級整備士を取得した際には、道内初の女性、全国でも2人目と新聞が報じたからだ。自動車整備振興会でも、国家一級整備士として定期的に紹介される。

「他の店舗や本部での支援も経験して、斜里店には12年います。今では、名札を付けていなくても私のことをわかってもらえます。名前を知らなくても、あの女の人と言えばすぐに話がつながります。ここは小さな町なので、スーパーで買い物していると『今度持っていくから頼むね』と声をかけていただいたり。時には『クルマが…』と相談されることもあります。ありがたいことです」

女性のマスターテクニシャンHITEQは全国で4名。女性の活躍の場は広がった。それでも増田さんのように高度な資格を持つ人は希少な存在。増田さんが整備士となった頃は、女性のメカニックは今よりずっと珍しい存在だった。

「当時は女性をメカニックの世界で増やそうという流れがあり、整備学校を出ていない私にも門戸が開いていました。ただ、まったく整備の知識がなかったので、ゼロからのスタートでした。最初は洗車くらいしかできません。階段を一段一段上るように、資格を取りながら、現場を経験する毎日でした。
お客さまの元へ整備結果の説明をしに向かうと、『キミに何がわかるんだ』と言われたこともありました。そのときは女性から整備の説明をされるという経験がお客さまにもなかったですし、知識がないと思われたのでしょう。勉強しても知識があっても女性というだけでそう見られてしまい、負けたくないと強く思いました」

乗り物好きの少女は、雪国へ旅立つ

整備士というプロフェッショナルな人にはどうしてその道を選んだのか聞きたくなる。マスターテクニシャンの中でたった1%の女性となれば、さらに興味がわく。

「私にとって、整備にかかわるのはごく自然な流れでした。幼い頃は周りが男の子ばかりで、一緒に遊び回っていました。おもちゃはミニカーやロボットなど機械的なものに囲まれていました。理科の教員をやっている父の影響もあるかもしれません。理工系のテレビ番組を見ながら話をすることもありました。気がつけば乗り物が好きで、街中を眺めて『あ! スカイライン見つけた!』と目で追っている女の子になっていました」

初夏から夏の間は農地の緑が美しく、まっすぐ走る道に気持ち良さを感じる。しかし、ここは北見。冬は一面銀世界。増田さんは高校を卒業した後に、北見の地にきた。

「雪が降らないところで生まれ育ったので、雪に憧れがあったのかもしれません。大学への進路を決めるときに、ふと、雪が降る土地に住みたいと思ったのです。雪国の工業系大学を片っ端から受験しました。それで向かった先が北見です。大学では、雪道を走る箱型のトラックが雪を後ろに巻き上げないための構造を研究していました。流体力学の分野です。
卒業後の進路を決めるときには、機械を触る仕事をしようと考えていました。それが日産の整備士につながったのです」

雪の降る冬は、思ったよりも寒かったと笑う増田さん。雪国の生活は独特の苦労も多いが、雪にはまだワクワクしてしまうと言う。北見の町を気に入っているようだ。

さらにディープな世界へと進む

負けず嫌いで追求したくなる性格、と増田さんは話すが、ここまで整備の道を追求しているのは負けたくないという思いだけではなさそうだ。

「やっぱりクルマや新しい技術が好きなのです。今でも手を動かしてクルマを触るのが大好きで、自分のクルマもちょっとしたことなら自分でやります」

1年目の社内サービス技術大会での準優勝記念の工具

それは、ひと目でわかる。愛車のエクストレイルを見せてもらうと、大きな工具箱がどんと乗っているのだ。

「入社して1年目に社内のサービス技術大会に出させてもらい、そこで準優勝しました。その賞品でいただいた記念の工具は、今でも現役で使っています。もう20年も前になりますが、KTCのネプロスという有名なメーカーのミラーツールのセットです。最初に手に入れた自分のツールはうれしく、ここから工具集めがスタートしました。
遠出するときは、工具屋さんについ寄ってしまいます。アストロプロダクツやファクトリーギアなど、クルマを触る方なら『あー!そうそう!』と話したくなってしまうようなブランド巡りです。そのせいで、現役整備士の工具箱に入るよりもたくさん持っていると思います。特殊な工具も持っているので、テクニカルスタッフから相談されることもよくあります」

こんなことを書くと、工具の相談もどんどんと増田さんに来てしまいそうだ。きっとやさしく、そして的確なアドバイスをくれるに違いない。

今は、テクニカルアドバイザーとして、斜里店のフロント、一番入口に近い場所でお客さまを迎える。最初の頃は、お客さまに整備の説明をするのは苦手に感じていたそうだ。

「説明をするためには整備の知識がなくてはできません。それと同時に、お客さまがわかりやすい説明とはどういうものかも理解していないといけません。初めの頃は話をするのさえ苦手で、テクニカルスタッフに配属されたときは自信がありませんでした。自分の言葉を噛み砕きながら、お客さまのことを知りたいと思うとぐっと話ができるようになりましたね」

接客に自信が持てないときに、本部から「まずはやってみてほしい」とぐいと背中を押されたことで、好奇心がわいた。型にはめず、自由にしてくれる好奇心。それはいつも増田さんを新しい世界へと連れてきた。「『変わっているね』とよく言われます」と、はにかみながら話す。新たな扉を押し開ける人には、賞賛の言葉かもしれない。

愛車のエクストレイルを大切に乗っています。お客さまのおクルマを長く大切に乗るコツをアドバイスいたします。今後も資格を更新し、最新の知識でみなさまのお役に立ちたいと思います。