マスターテクニシャン File:21

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どこまでも想像することが気遣いになる

愛すべきスカイラインとの出会い

細田さんを整備士になろうと決意させたのは、1台の日産車。アルバイトをして貯めたお金を握りしめ、中古車ショップを訪れた彼が見つけたのは、お世辞にもきれいとは言えないスカイラインだった。

「手持ちの金額をはたいて買えたのが、その中古のスカイラインでした。本当に、『ポンコツ』という言葉がぴったりの古いクルマで。それでも、初めて手に入れたマイカーがうれしくて、暇を見つけては手をかけていました。

もともと機械いじりが好きで、自分で修理するのは本当に楽しい時間でした。パーツや技術的な相談で、日産のお店に行く機会がどんどんと増えて、いつしかここで働きたいと思うようになったんです。

整備の勉強を始めてから、日産車の魅力にますます引き込まれていきました。今でも、開発の方にお会いしたときに技術の話を聞くと、整備をしている私たちにも見えない積み重ねと試行錯誤を知ることができて、その歴史の重さを感じます。日産のクルマはそうして磨かれてきたんです」

運命の整備士になりたい

音や振動などの修理にあたるとき、細田さんが必ず聞く質問がある。それは、運転の仕方だ。そして、その会話から人柄や気持ちを察していく。

「感覚的な故障の修理は、ものすごく難しいと感じています。音もにおいも、触った感じ方も、人によって違う。ですから修理にとりかかる前に、お客さまの乗り方と使い方をお聞きするのです。
運転の仕方をストレートに質問すると『普通だよ』とお客さまは答えます。でも、その普通は、お客さまによってまったく違うし、私の普通とも違うことを知っていないと、解決の糸口は見つかりません。

お客さまの話を聞いた後に、たとえばタイヤの摩耗を見て、大事にクルマに乗っている人だな、この人はとばす人だな、と。信号で止まるときのブレーキの踏み方までを想像する。お客さまから聞く情報に、私が見たり触ったりして想像した情報を足して、整備にかかります。その想像することの大切さに気づいてから、不具合の再現がしやすくなりました」

技術や知識だけでなく、想像力で整備にあたる。どこまでも探求していく細田さんのその原動力はどこにあるのか。

「不具合を再現できなかったクルマを『音は出ませんでしたよ』と返してしまうのは簡単なこと。プロである整備士がそのように言ってしまい、悩みを持ち続けていらっしゃるお客さまもいらっしゃいます。

だから、私のところへ来たクルマは『なんとしてでも直そう』と思います。自分が受け皿になれればいいと思うのです。お客さまにとって運命の整備士でありたい。そんな出会いができれば、お客さまのその後のカーライフも安心したものになります。
気持ちのある整備士と巡り会ってほしい。そういう思いでいる整備士は全国にいると思います」

失敗できるチャンスを残す

細田さんの課題は、人を育てることだという。指導している中で、思うところがなかなか伝わらないこともあるからだ。

「エンジン交換やクラッチのオーバーホールなど、重整備といわれる作業を一人で黙々とこなしていくのは好きです。機械と対話する時間ですね。私もそうですが、一人でじっくりやりたいタイプは整備士には多いかもしれません。
ただ、お客さまのクルマを預かっている私たちは、効率やスピードを考えなければいけません。一人ではなく、ほかのスタッフを巻き込んで取り組んだほうが早く確実なこともあります。その中で後輩たちが考える前に、答えを言ってしまっていることがあるんです。そうすると、なかなか伸びない」

すぐに答えを教えてしまうと、人は育たない。けれど、限られた時間の中でどれだけ考える時間をつくってあげられるか。大いに悩むところだ。

「子どもを見ているとよく思いますが、言われたことよりも、自分で感じたことのほうが経験値として大きい。『そうやると失敗するよ』と教えても、自分で失敗しないと分からないこともあります。

だから後輩にも、失敗させてあげよう、と最近はそう思えるようになりました。自分で考えて、失敗できるチャンスを残してあげよう、と。
私ができることは、その失敗の度合いを小さくしてあげること。普段のコミュニケーションの中で、私の失敗談をするようにしていますね。本当は隠したいものもありますが、その話の中から何かを受け取ってくれれば、という思いです」

整備をしながら、お客さまやスタッフのことを考える。その気遣いが自分を鍛えることにつながるのかな、と細田さんは言う。優しくもストイックな整備士がそこにいた。