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基本に忠実であるオールラウンダーが見るもの 日産プリンス熊本販売株式会社 日吉店 栃原 竜二(とちはら りゅうじ)さん ※2012年3月16日時点での所属店です

見えないところも手を抜かない

栃原さんの名刺には5つの資格名が記されている。国家1級整備士に日産1級整備士、1級テクニカルアドバイザー。その後には、1級車体整備士、1級塗装士と続く。整備と板金の両分野の資格を持っている人はとにかく珍しい。

「板金に興味があって、板金の道にも進みました。電気が主流の整備になった今でも、板金塗装は職人の手作業のような、手でたたいたり、目で見て触れて微調整をしたりというアナログな感覚が求められる分野。ボディには "クラッシュゾーン"という部分があって、衝撃を吸収する構造になっています。この部分を元に戻すのは、相当な技術がいる。それも見た目だけではなく、性能まで元に戻すんです。鍛錬を重ねないとできない技の道、そこが魅力でした。

一台一台、ボディの状態によって、直し方が違います。いろんなパターンがあり、やり方も手順も変えて対応するには経験が必要です。板金というのは電気やエンジンと違って、修理が終わり、仕上がったものが一目見てわかる。驚くほど形が変わってしまったクルマでも元通りになり、お客さまに喜んでいただけることがやりがいになっていました。板金は外がきれいであれば、中はわかりません。しかし、だからこそ見えないところにも手を抜かない。すみずみまで美しく仕上げることが私のポリシーです」

父の背中を見て

クルマが好きで整備士になったという栃原さん。実は、板金工場で育ったそうだ。職人技に魅かれていったルーツにあるものとは。

「実家が町の板金工場で、小さい頃から父の手伝いをして、クルマに馴れ親しんでいました。それでも、父と同じ世界にいるというのは不思議な気がしています。
手伝いをしながら、『預かったクルマは必ず修理して、お客さまの元に帰さなければ』という父の信念を感じていました。父がやっていた頃は今と違って、個々の車種に対応した部品が手に入りにくい時代でした。修理するための部品がないなら、自分で一枚の鉄板から作る、という仕事ぶりを見て育ったんです。ないものは自分で作り出してしまう、職人としての意気込みを今でも尊敬しています」

基本に忠実であること

職人の極めた技に憧れていて、と話す栃原さんに仕事の中で大事にしていることを聞いた。我が道を進んできたと思われた彼の口からは『基本です』という意外にもシンプルな答えが返ってきた。

「特別なことはないですが、基本に忠実であることを大事にしています。職人技を追求しすぎると我流が出てくるんですが、そうならないように、基本に忠実にやってきました。
私は、整備の経験をした後、ゼロからのスタートで板金の世界に入ったので特にそう思うのかもしれません。マニュアルや研修の資料などを何度も読み返して、それを忠実に守ります。我流では応用がききません。いろんな状況に柔軟に対応するためにも、常に基本の位置に自分を置くようにしています」

お客さまの言葉を整備士に届ける

栃原さんの今の仕事は、テクニカルアドバイザーとして、フロントでお客さまに会うことだ。整備や板金をしていたときと違うのは『目には見えない部分を探ること』と語る。

「お客さまの言葉にならない部分や、一目見ただけではわからない感覚的なことをくみ取るのが整備士とは大きく違います。何に困っていらっしゃるか、気づかないまま不便に感じていることはないか。見えていない部分をよくしていくのが私の仕事なんです。
そのために、お客さまの言葉にじっくり耳を傾け、自分の解釈を含めずに現場に伝えています。私が整備の現場にいたときに、一番欲しかった情報がお客さまの言葉でしたから。
一回でも自分の解釈が入ると、お客さまが伝えたかったことが整備につながらないことがあるんです。言われたことを言われたまま整備士に伝える、これがとても大事。整備士へアドバイスをすることはありますが、いろんな可能性を含めて伝え、後は実際にクルマを見る整備士に委ねます。これがお店とお客さまのいい関係作りにつながると思っています」

同じクルマに乗っても人によって感じ方は異なります。たとえば不快だと思う音も人それぞれ。整備士が的確に修理できるよう、私がつなぎます。どうぞ、お客さまの声を聞かせてください。