マスターテクニシャン File:32

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結果のためのすべて

クルマを直す喜び

インタビューで訪ねたとき、冨田さんはちょうど全国日産サービス技術大会に出場する選手を指導している最中だった。全国日産サービス技術大会は、全国の優秀な日産のサービススタッフが一同に会し、整備や接客の技術を競う大会だ。

「昨年の東北ブロック大会で準優勝を勝ち取り、全国大会にコマを進めました。私は大会に向けて、練習のカリキュラムを組んだり、実技や学科の指導をして、スタッフをサポートしています。出場するスタッフは、毎日の仕事の合間に指導を受けて練習に励んでいます。その頑張りが全国大会出場につながりました」

整備士たちの大舞台となるサービス技術大会。今はプリンス福島の整備技術の教育を一手に引き受ける冨田さんも、入社して5年目のときに、選手としてその舞台に立った。

「整備士になったのは軽い気持ちからでした。高校時代にクルマのカスタマイズがはやったのですが、お金がなくて工賃が工面できない。それなら整備士を目指そうと、そんなよこしまな理由でした(笑)」

しかし、いざ整備士の仕事を始めて出合ったのは、『クルマを直す純粋な喜び』だったという。

「始めはクイズを解くような感覚でした。1問ずつ、修理の問題がきて、解けるとうれしい。誰にも解けないような問題がクリアできたときは喜びも大きい。そんな面白さに夢中になりました」

整備士の道をがむしゃらに進み、社内で選ばれて技術大会にも出場すると、そこで、ひとつの山を登り終えたような気持ちを覚える。

「今、考えるとおこがましいのですが、整備士としてやりきった感というか、もう目指すものがなくなったような気持ちになってしまったのです。そこで、新しい仕事にチャレンジしたいと、フロントでお客さまと向き合うテクニカルアドバイザーを希望しました」

自分のことを「熱中するとのめり込むタイプ」と分析する冨田さん。持ち前の集中力と器用さで、接客の仕事にも没頭した。お客さまに求められる以上のものを提供しようと努め、仕事の面白さも大変さも経験した。そして、とことんお客さまと向き合うことでまた湧き上がってきたのが、整備への思いだった。

「新しい技術を自分の中に詰め込んで、その知識や経験で故障を直す。この、『クルマを直す喜び』をまた感じたいという思いが強くなっていきました」

そこで整備士に戻るきっかけになればいいと、テクニカルアドバイザーの仕事をしながら整備士の資格試験に臨んだ冨田さん。難関といわれる国家1級の資格を取り終えると、整備士に戻ることができた。

工場長時代の転機

再び整備士となった冨田さんは、やがて工場長に抜擢される。しかし、そこで、大きな壁にぶつかることになる。

「整備士のときは一人のプレーヤーとして、自分だけが努力すればよかった。その考えのまま、工場長になってしまったんですね。たとえば、難しい仕事があればそれは自分が引き受けて、簡単なものを後輩に渡す。管理職としてスタッフや会社の成長を考えるのではなく、その時の効率だけを考えていた。それでは工場はうまく回らないのです。当時の店長からも指摘されて、自分一人でできることの限界を知りました。

それに気がついてからは、組織運営や人を活かすことを考えるようになりました。それでも、工場長時代を振り返ると、もっと何かできたのではないか、もっと人に大切なものを教えられたのではないかという思いが残ります。その後悔を、今の『人を育てる仕事』に活かしたいと思います」

足りないところを補う

現福島県で唯一、マスターテクニシャンの称号を持つ冨田さん。スタッフと接するときに心がけていることがあるという。

「教育担当として、技術大会や資格試験に向けた実技的なことを教えています。しかし、テクニックだけを教えることはしたくないと思っています。私が直接伝えられる貴重な機会ですから、一人ひとりをよく見て、技術やサービスなどその人に足りないことを伝えるように心がけています。これからの仕事で実際に役に立つことを教えていけたらいいですね」

大会や試験に臨むスタッフへのアドバイスも忘れない。それは冨田さんの「結果」のとらえ方だ。

「結果がすべてという言葉がありますが、『それはそのとおりでもあるし、そのとおりでもない』とスタッフによく話しています。結果がすべてというと、ちょっと寂しいですよね。結果を生むために今、していることがすべてなのであって、結果だけが重要なのではない。“結果のためのすべて”と考えようと。もし、結果が伴わないのだったら、すべてをしていなかったととらえたほうが前向きですよね。すべてに対して、足りなかったところを補っていけばいいんです」

自分の仕事は『種まき』のようなものだと冨田さんは語る。冨田さんがスタッフに教育という形でまいた種が芽を出し、次々と花を咲かせる日は、そう遠くないに違いない。

おクルマでお困りのことは、なんでも気軽にご相談ください。日産の整備士が最新の技術と知識とサービスで、お客さまのおクルマをお守りします。