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負けん気で進んできた道 京都日産自動車株式会社 杉田 学也(すぎた たかや)さん ※2012年11月8日時点での所属です

自信のなさと負けん気

立派な人間じゃないんで、嘘はつきたくない。自分を飾るのは性分に合わないと、話した杉田さん。しかしながら、彼は若くして難関資格の数々を取得している。その原動力はどこからきているのか。

「自分に自信がない、整備に自信がない。そんな劣等感の塊だったんです。だからこそ、形になる資格で、進んでいる階段を目に見えるようにしたかった。
整備士として働き始めた頃、『同期のアイツはあんなことができた』なんて噂を耳にしては、『俺はまだこんなところで止まっている』と落ち込んだものでした。経験で勝てないなら、資格の勉強をしよう、そう決めたんです」

そうは言っても、資格取得のペースを維持してやり遂げるのは並大抵のことではない。階段を駆け上がる杉田さんの目に見えていたものとは。

「やり始めたら、とことんやりました。お弁当を食べながらでも、デート中でも勉強していました。それくらいのめり込まないと勝ち取れない。寝る前に必ず1時間本を読むのも日課です。そこまでやれたのは――負けん気、だけですね。みんなが取っていないなら、取ってやろうと意気込んでいました。

自分で走っておきながら腐ってしまった時期や、現状に文句ばかり言う時期もありました。そんなときでも、私は周りの人に恵まれていました。若いとなかなか受けさせてもらえない資格も、当時の工場長がやるんだったら! と応援してくれました。先輩がサポートしてくれたり、息抜きのしかた仕方を教えてくれたり。応援してもらって、こんなところで止まっていられないと、苦しさも負けん気で乗り越えました」

一人占めはしない

できるアイデアマンは、アイデアをオープンに共有して実現するという。優秀な上司は部下と意見を共有するという。杉田さんの話にも『共有する』というキーワードが出てきた。

「一人占めは嫌いなんです。共有するというのは基本。私が得た知識や情報はみんなに言いますし、他のお店の情報も聞きに行きます。聞くのも、伝えるのも大事なんです。技術的なことも以外でも、お客さまからのお礼の言葉を整備した人に伝えるなど、私だけではとどめないように気をつけますね。

若手に対しても同じです。知っているかもしれないことも、口に出して伝えるんです。もしかしたら、プライドを傷つけてしまうこともあるかもしれない。それでも、『こんなん知ってはりますか?』と会話をして、知識を共有していく。なんでもないことで、コミュニケーションとるのも大切ですしね。まぁ、ただのお節介焼きなんです。常に、横目で誰が何しているのか、見ているんですよ」

私の目線、お客さまの目線

杉田さんの『共有する』というのは、何もスタッフに限ったことではない。お客さまとの共有も大事にするという。

「最新技術が搭載された今どきのクルマで不具合が出るわけがない。入社当初、私はそう思っていました。この『クルマが走るのは普通のことだ』という感覚は、お客さまも同じなんです。でも、実際は乗り方や部品によって不調が出ることもあります。消耗もしていくので、メンテナンスしなくてはならないところが絶対あるんです。整備士やお店側から見ると当たり前になってしまうことでも、お客さまの持っている感覚を忘れないようにしていたい。お客さまの目線で見えるものを共有して、話をしたいと思っています。
例えば、お金をかけたくないという場合にも、どうしたら最低限の出費で、安心と快適を手に入れられるかのアドバイスをするよう心がけます。難しくなりがちな修理の話も、納得していただけるように、リスクや他のお客さまの話など多くの情報を伝えています。

そういう共有をするために、お客さまのお名前は覚えるようにしています。逆にご来店されたときには、私の名前と顔を覚えて呼んでいただきたいですね。信頼される、山科店の顔でありたいと思っています」

山科店の入り口近くが杉田さんの席。来店されたお客さまを一番初めに迎える

育てる

杉田さんは、テクニカルアドバイザーとして、お客さまと整備の橋渡しをする。お客さまから受けた相談や修理を整備士に伝えるときにも、彼のポリシーが光る。

「絶対、余計なことは言わないようにしています。整備が私の言葉で、余計な方向に走ってしまわないように、お客さまの言葉をそのまま伝える。整備の中で、ある程度診断して、相談された場合に、初めて私の見解を伝えます。
そこには、育てるという意味もあります。若手が力をつけるためには、試行錯誤して考える時間も必要です。相談されて初めて、一緒にクルマを見ます。それで解決もしますし、逆に僕が教えられることもある。これも『共有』ですね」

杉田さんが整備士時代にとった資格の中で、整備には直接関わりのないものもある。そこには、自分のため以外の理由があった。

「テクニカルアドバイザーの資格などは、整備士の自分には関係ないと思っていました。けれど、経験を積むにつれて、自分以外の人を育てるという役割も求められることに気づいたんです。直接携わらない業務は資料を見ても難しく、苦戦しました。それでも、自分がこの道を通れば、あとに続く誰かに相談されたときに、できる限りのことを教えられる。
フロントで仕事をしている今は、整備工場の現場から離れたために、技術の勉強が大変になりました。しかし、これからも勉強を続けるつもりです。誰かの役に立つためにも、お客さまとのコミュニケーションのためにも」

負けん気だけで進んできたと語った後、「遊びを犠牲にせずにね」とひと言付け加えた。四角四面ではうまくいかないと、気取らずに周りに配慮する彼の背中にはかっこよさが滲み出ている。

山科店一同、みなさまのご来店をお待ちしております。お名前を覚えていただけるくらい、印象に残るおもてなしをいたします。