
「中学校の卒業アルバムを見ると、将来の夢『歌って踊れる修理工になりたい』って書いてあるんですよ。機械いじりが好きな子どもでね」そう言って笑う廣さんは、マスターテクニシャンの資格を持つテクニカルアドバイザーだ。今は整備の現場ではなく、フロントでお客さまの要望をキャッチし、それを整備士に的確に伝える。
「車検や点検の入庫受付や修理お見積りなど書類作成のほか、お客さまにあったメンテナンスのアドバイスを行います。今はメカニックではないのですが、お客さまから受けたおクルマで気になる不具合は整備士とともに一緒に見ることもありますし、相談を受けることもあります。
メンテナンスのためにご来店されたお客さまと最初に会い、ご要望を伺うのが私の仕事です。お預りしたクルマで、どうしても現象が出ない不具合は、メカニックとともに考えられる不具合をすべて潰し込み、確認する作業を繰り返します。そのために、お客さまの話から、状況をできるだけ詳細に把握する必要があります」
壊れているものは、直すことができる。しかし、「車両から出る音をどうにかしたい」という要望となると、どこまでできるものなのか。
「たとえば、音がすることは確かだけれど、クルマの構造上問題があるわけではない。けれど、実際にクルマを使う側からすると気になる音というのもあるんです。
なんとかしたい。その思いで、考えられる方法をいくつも提案します。どこまでできるのか、というお話を詰めたうえで作業をスタートします。方法があるのであれば、難しくともその可能性を全部お話したい。そう思っています」

数万点というパーツで組み立てられたクルマ。ドア1枚の中でもたくさんのパーツがあり、そのパーツ同士が干渉しあって音が出てしまうことがある。廣さんは、その音を解消するワザを持っているのだ。
「メーカーにある修理支援の部門に数年いました。各分野のスペシャリストが集まって、販売会社の修理をサポートする所です。ここで私が『お師匠さん』と呼ぶ人に出会い、その方からボディを調整する技術を学びました。エンジンや足回りの整備は整備書に書いてありますが、ボディの建て付けの調整なんてありません。勘だったり、器用さであったり、そんな職人的な要素が必要になるんです。そういうところが性分に合ったんでしょうね。のめり込んで勉強しました。この技術を修得している整備士は、なかなかいないと思いますよ」

ドアを構成している金属板やゴムを調整し、音を消していく
資格を順調に取り続けていた廣さんが、スペシャリストの集まる場で衝撃を受ける。「自分なんて大したことない」そう思えたから学べた、という。
「上には上がいると、身を持って知ったのがそのときです。それは私の成長の中のひとつでした。技術を教えてくれた『お師匠さん』がよく言っていた言葉があって―『下の意見を聞けなくなったら、自分の成長はそこまで。そこでやめてしまえ!』と。
そう言って、自分よりずいぶんと上だったその人が、当時の私の意見を聞いてくれたんです。下の意見を聞いていけば、自分の先がどんどん広がるんだと教えてもらいました。それは本当に心に残っていて、私もそうでありたい、と思ってやってきました。今も私に影響を与えている人ですね」
お預かりしたクルマはお客さまにとって大切な1台であることを胸に刻んでいる、と語る廣さん。幼いころの夢を叶えた整備士は、いま、若手整備士にその思いを受け継ごうとしている。

クルマが不調なときは音やにおいの情報を出します。ベルトやエンジンでトラブルがあれば、音やにおいがするんですね。メンテナンスの知識がなくてもわかりますから、音がしたらお店で点検を受けてください。においが出る場合は、不具合がかなり進行している可能性もあります。
整備士は、「こんなときにこんな音がする」と伝えていただくと、どのパーツか見当がつきます。音は、整備のうえでも大きなヒントになるんです。点検の際は、『音』の情報も私たちに伝えていただきたいと思います。



